「今回の芥川賞は震災小説だって。正直、今ごろか、またかと思っちゃった・・・」と言った人に、
「そんなこと言うなー、まだ震災が終わってない人がいっぱいいるのにそんなことを言うな―ガ――」と、
まるで廊下を走る小学生を捕まえた教師ガ――みたいな脊髄反射をしてしまいました。
が、わたしも聞いた瞬間、同じことを心の底で思った気がします。
震災物語か・・・。
むしろ、「この先」の第三次ナントカが勃発しかねない気配とか医療・経済格差(日本は世界第3位にランクイン)とか、そんなむつかしいことじゃなくても、保険料5~7割負担が数年先にせまっているとか、庶民レベルでもっとやばいシフト、と囁かれることのほうが気になるのです。頼りないわが身として。
まあ、とりあえずどんな毒素を大量に浴びようが、ひとりひとりが自分のガンは自分で治せるようなサバイバーになれたらいいんじゃないか。じゃあそんな(時にすごく危険な)知恵を庶民がシェアしあうにはどうしたらいいか。敷居が高いんじゃだめだ、わかりやすい共通玄関といったら「美容」だ、美容健康について熱く語る女は必ずこの世をどうしたらいいかという話にゆきついて拳をにぎるからな、前向きな話をだな、、と、重腰でえっちらおっちら活動し始めたところですが、
震災物語か・・・。
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読んでみたら、これは「震災小説」と呼ぶべきものではなかったので、あれ、と思ったのでした。
おそらく作品をちゃんと読んでいない幾つかのメディアが、はじっこだけ拾って記事を書いた、もしくは敢えての話題づくりだろうけれど、中身と整合性の(あまり)ない見出しをつけた記事がSNSに拡散されてしまうことは、文学にとって(文学に限らないが)集客効果より痛手のほうが大きくないのかな。
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「どうしてこれが芥川賞なんだ」と不平がある方、よくわからなかったという方の意見ももっともだと思った。魅力が、わかりづらい。
正直自分も、この作品そのものはあまり“好”評価ではなかったのだけれど、これは「芥川賞」という名の館に保存しておかなきゃいけないのだと思う。
「次の作品」を書いていただくために、この作者とデビュー作は殿堂入りしなくちゃいけないんです。なぜなら・・
主人公の友達がイクラ3粒を釣り鉤にさすシーンの、何だか生命力の儚そうな、それがかえってエロティックに思える(私には)男性愛の気配・・・に象徴されるその後の二人の関係性とか、崩壊願望からのハイライトシーンとか、当地ではないが「周辺地」から捉えた震災のありさまとか、東京でない周辺都市出身男のファッションしまむら的スタイルの抒情性、とか・・・・・・
そんなニッチ×ニッチ×ニッチ×ニッチな視点と思想が、それこそ絡まった釣り糸みたいに紡がれていくさまは、見事な筆致に緩急づけられて、とてもよかったから。
崩壊願望からのラストシーンは・・・予定調和な気がした。(震災小説なんて宣伝文句を聞いてしまったせいだ)。それに全体の構成も、密かな囁きをウラ刺繍として差し込んだのが後から生きてくるはずだけれど薄く刺しこんだのでわかる人にしかわかりません、、、的な感じがして少し鼻についた。
これがわざと狙ったもの(テクニック)だとしたら、おおいに不満。
だけどそれが帳消しにされるくらい文体は美しい。私の苦手な自然描写が美しい。美しいものが好きな人におすすめ。
こういう「ニッチ」な視点とその表現はもちろんSNSでもほかのどんなメディアにも書くことはできない、誰も書くことはできない。それこそニッチとか誰にも読まれないとか言われてしまう「文学」のなかにしか表現できないもので、小説好きのさらに20人に1人くらいにしかきっと読まれなそう。(そもそも文学を必要とする人は大昔から20人に1人くらいしかいないそうです)、私もきっと、ちゃんと読めていないんだけど、
この作品を保存すべきだときめた芥川賞選考委員の方たちは、やっぱり目利き揃いなんだ、プロの読み手というのは未来(の作品)を読むんだなーと思って感心した。
(一名、、日本と台湾との狭間のアイデンティティに揺れる別の作品を、「対岸の火事で…退屈だった」。と言ってしまい大バッシングされている宮本輝さんという方は、もしかしてご体調が悪いのではなかろうか。候補作の長文化が不満だと書かれていたし)
私が「美容」の名を借りてこっそりシェアし合おうとしているニッチなこと、あやうくて庇いつづけたいマイナーなものを、私が恋焦がれる文学のちからできちんとやり遂げる沼田真祐さんという作家には敬意を表したく、ぜひ二作目を読んでみたいと思った。
以上・・こうやって備忘録を書いておかないと会でしゃべれないような微妙でマイナーであやういことが書かれている作品なので、
続きは根本サロン教室で^^
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次回(19回)の根本小説サロンでは、芥川賞の『影裏』を合評しあいます。
(8月26日(土)1600~ あと2席あいています)
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