ガタイのいかつい男性が、杖をついた男性に、なにか話しかけている。
ゴールドジム帰りみたいなスノッブなスウェット、光リモノをトッピング、アゴが割れてる。
杖の男性は、素朴な角刈りで、かばんをたすき掛けにしている。身体がふらついて、左脚が不自由なよう。スマホを片手に「いえいえ」「いいです」と何かを断っている。その眼もろれつも、スムーズにまわっていない。
これは私の嫌なシチュエーション、狩りではないのか。
思わずバッグの中に手をしのばせて愛器をにぎりしめる。CS60はそういう武器ではありません。
瞬間、アゴ割れマッチョは、さわやかに手を振って立ち去った。
角刈りの男性は、軽く会釈をした。
その拍子に、かばんにつけた赤い札が揺れて、よく見たら、それはヘルプマークでした。
「ヘルプマーク」
義足や人工関節を使用している方、聴覚、知的障害など内部障害のある方や、難病、妊娠初期の方など、外見から分からなくても援助や配慮を必要とする方が、まわりに理解や支援を求めやすくするためのもの。
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2012年に発行。数年かけてSNSでもずいぶん拡散されて、認知も広がったと思うけれど、こんなふうに、市民が市民をふつうにサポートするアイテムとして定着したんですね。
哉きかな哉きかな。
じゃなくて。
人を見た目で判断してはいけません。
杖をついて立ち止まり、スマホをじっと覗いてた男性のヘルプマークを見て、アゴマッチョ氏が、「お困りですか」と声をかけたようだった。
でも、男性は「大丈夫です」ってお返事したようだった。
ああ、おばはんが割って入って台無しにしなくてよかった。
さわやかに去ったアゴマッチョ氏を、少しだけ振り返って、またスマホに目を落とした角刈り男性は、たったいま愛されたひと特有の、はにかんだ笑顔を浮かべていました。
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