先日、家人と待ち合わせで、繁華街を歩いていたら…
みるからに、わかりやすい犯罪系キャッチセールスを目撃しました。
「君さ、1ヶ月たった千円でこーんな(両手を広げる)でっかいサイズなんだよ。絶対に得だって。店では売ってねえし。ここで買わなきゃどうすんだって話だろ?」
いったいどんな商品なのでしょう。
ガラの悪い口調で押し売りをしているのは、30才くらいのお兄ちゃんでした。写真をとってみた。
手っ取り速く日サロで焦がしたような肌に、過剰なカーリーヘア、紺シャツにピンクタイ、小わきにはコーラの1Lボトルを抱えている。
ひと昔前の、ちょい悪雑誌『LEON』と『漫画ゴラク』とゴリラを足して3で割ったような。「今風のインテリヤクザ」になりたかったのに何かを間違えてしまったルックスです。
一方、釣られている子は、この写真の後ろ姿で伝わるでしょうか。
小柄で、お痩せで、あまり覇気が感じられず、全体的にポヤンとした推定25才くらいの男の子。
キャッチセールスの人って、よくも雑踏の衆人の中から、こんな子を見つけ出すものだと、感心してしまいます。
「君さ、人にこんだけ喋らせといて、反応うすくね? オレ悲しくなっちゃうよ、なんでそんなに無反応なわけ?」
「ハ、ハア…」
コーラの兄ちゃん、イラつき始めたのか、コーラをゴッゴッと口に含んで、ガーっと威嚇しはじめました。
本当にゴリラみたい。
しかもドペーッとそれを、地面に吐いたんですよ。
本宮ひろ志の漫画に出てくるワルだって、そんなことしませんよ。
口からアスファルトに叩きつけられたコーラは、口に含む前よりドス黒く見えました。
なんて邪悪なんだろう。ゴリラに失礼だ。これは霊長類の仕業ではない。
「おい、聞いてんのかよお。人にこんだけ喋らせといてよお。こんな所でムダ話してる場合じゃねえだろ?」
「ハア…。はい…」
コーラ男の論理は、あまりにも破綻しているので、かえってポヤン君は、頭が麻痺してきたようでした。なんだか体がフラフラしています。
「ええ? わかってんのかよー」
そんなポヤン君をさらに洗脳すべく、コーラ男は胸元をこづき始めました。
やばいなあ。そろそろ、誰か助けて…。
でも道行く男たちは、こんな都会の軽犯罪は、まる無視。
あまりにも、わかりやすい恐喝をしているので、何人かは、「あ、キャッチだ…」と心配そうに振り返ります。
そういうそぶりを見せるのは大抵20代後半~30代前半の男性なのです(女性とおじさんはガン無視)。5人にひとりはジーッと見てゆきます。
でもみんな、邪悪なコーラ男の風体を見て、怯えた顔をして歩き去っていきます。
じゃあ、しょうがないから私が…。
……。
いや、待てよ。ハタチを過ぎてまもないであろう、このポヤン君の覇気のなさはどうでしょう。
いま私が助けたら、将来もっと受難が降りかかったとき、ひとりで解決できない子になってしまうのでは。
「子育ては、育てないで育てることが肝要」という、どこかのお母さんの格言を思い出します。
この街には、彼そっくりの……彼が40、50年後にワープしたかのような、優しそう(気弱そう)なホームレスの人がたくさんいます。
だめだめ。手を貸したら、この子の未来は路上だよ。さいなら。
………。
いや、待てよ。
フクシマから疎開してきたばかり、というような可能性もある。不慣れな都会で、故郷では見たことのない都市系ゴリラヤクザに、こんな目に遭わされて…。
ほか幾つもの可能性が浮かんで、進退きわまる私。
念のため、証拠を残そうと音声録音をしていたら、
「ここじゃしょうがねえから、ちょっと事務所に来いよ」
コーラ男が、ポヤン君の腕をつかみ、スクランブル交差点へと引っ張り出しました。
あっっ
次の瞬間、私がとった行動はどれでしょう。
①通りすがりの〇〇士ですが。先ほどから揉めてらっしゃいますね。(非番の警官か休日の弁護士、という司法系)
②消費を守る市民の会、の者で、パトロールしております。何かトラブルが?(エコ市民系)
③「○○くぅーん、お・待・た・せ」(ハニー系)
答え、③。
①②は、状況と感情をこじらせるおそれがあって面倒。
特に①は、私のまぬけ面+ジャージ服ではあまりにも説得力がなさすぎます。
私は夕暮れのスクランブルに飛び込み、「ハルくうーん! 待たせてごめん」と腕にしがみつき、耳元で「…フリをして」と囁きました。(ネーミング設定:ハルヲ)
そしてコーラ男を見上げ、「なにー。知り合いの人?」と目をパチパチ。
40女のやることじゃない。わかっている。
コーラ男は、みるみるゆがんだ風船みたいな顔になって、「いや、ちげーんだけど」。ものっすごい不審そうに、睨んできました。
そしてポヤン君ったら、予想どおりアドリブのうまくない子。
「あ、あ…。ハア、待ち合わせで。モゴ、モゴ」。
…ですから、コーラ男は、いよいよ不審そうな顔でガン睨みしてきます。
しかし私がポヤンの腕にしっかりしがみついているので、
「なんだ%$%$#%#”&$%”$覚えて桶」みたいな捨てゼリフをはいて去っていきました。
忘れないよ、そんなゴリラのようなルックス。
で、私はポヤン君の腕をひいて駆け足で、
逃げる逃げる逃げる逃げる。
…ハアハアハア、
「あなた、なんで早くNOって言わないの。ハアハア、うっかりあんなのにサインしたら何十万もの高額商品を買わされるんだからね ハアハア」。
でも、ポヤン君ったら、
「いやあ…そういうキャッチセールスかなあとも思ったんですけど、なんか断れなくて」「あのう~、なんか、助かりました…」。エヘラ
、とか笑ってるんです。
なんだこの子は、と思いながら駅へリリースしました。
本当に怖くなって、イヤな汗が出始めたのは、それから。
コーラ男、すげえ怒ってたな。
おどし倒した獲物を目の前でさらわれたんだから、そりゃ怒る。
まだ街をうろついているかな。後ろから、ドタマかち割られないかな。
怖くて怖くて、何度も後ろを振り返りながら家人との待ち合わせのカフェに走りました。
ぜんぶ聞き終わった家人、ふーっと息をして言いました。
「面白すぎるねあんた…。だけど、あんたが嫁さんだと生きた心地がしないよ。もう中年なんだから、無謀なことは、ほどほどにしてね」
それだけ?(・・)
なんだかこう、働きがいのない事件でした。
3.11があって間もないが、こういうビジネスに励む輩がいるのだな。しょうもないな。
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