変身作家の後ろ向きな迷言

微熟女です。

「ポジティブ」思考で人を元気にし、人のためになろうという言葉や考えが巷にあふれるゼロ年代です。私もそういう言葉は好き、前向きな人は大好き。

ですが、

そうした空気が「偽善の世」を促進している面がある。という、ジャーナリスト青木理さんのご発言を聞いてちょっと考えました。

たしかに、今の日本は、人におもねらなくては爪弾きにされる「ムード」はあると思います。

70~90年代の総合雑誌などを読み返すと、「だよね昔はこのくらいKYだったよね」とホッとすることも。そのぶん下品、ネガィブと感じたり「ナントカ・リテラシーは!?」とハラハラしたりすることもありますが…

世論≒マスメディアも、ひと昔前より慎重な空気、偽善の空気があり、それが長らく原発、司法など大問題のヒハンを回避してきた一因になったのではないか。

って、

そんな小難しいことでなくとも、「無自覚に」ポジティブワードにひたりすぎると、なにかが阿呆になると私はおもうのです。とくに物書きは、クリエイティビティが減退するのでは。

左目に「日」を右目に「月」を。能動的に両方見ないと、「明」るく、ものは書けないのではないかと。

と思っていたら、こんな本をみつけました。

絶望名人カフカの人生論/フランツ・カフカ

¥1,500

このサイトから引用しますと。

20世紀最大の作家と称されるカフカは、実は“超”のつくネガティブな人。誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはき、誰よりも前に進もうとしなかった人間なのです。

カフカは何事にも成功せず、そして失敗からも学ばなかったとされています。生前は作家として認められることはなく、普通のサラリーマンとして仕事をしていました。結婚したいと思っても生涯独身、胃が弱くて不眠症。家族とは不仲で、何かと父親のせいにしていました。

長編小説を書いても途中で行き詰まり、ほとんどが未完。満足できる作品を書き上げることができなかったため、すべて焼却するようにと遺言に残していました。

そんなカフカの、人並み外れた後ろ向きな名言を見てみましょう。

「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます」
(ラブレターの一節)

「ぼくは、ぼくの知っている最も痩せた人間です。体力はないし、夜寝る前にいつもの軽い体操をすると、たいてい軽く心臓が痛み、腹の筋肉がびくびくします」
(婚約者への手紙)

「ちょっと散歩をしただけで、ほとんど3日間というもの、疲れのために何もできませんでした」
(人妻への手紙)

ぷっ。

カフカ先生、ごめんなさい。でも思わず噴いてしまいます。「目を疑うようなネガティブ発言ばかりですが」って、このサイト記者の方も面白がっているのではないでしょうか。

『城』『審判』とあれだけ素晴らしい作品を書かれながら、こんなヘナヘナ手紙を…。もらった女性たちも、さぞ困惑したのではないでしょうか。

でも「ああ、そうか」と思いました。これだけネガティブでなかったら、あんな醜い奇虫になってゴーロゴロ、みたいな変身譚が浮かぶでしょうか。

カフカ先生が現代の日本に生きていらっしゃらなくてよかったと思うのです。うっかり啓発セミナーやSNSやメディアなどで「前向きシャワー」で漂白されていたら、あのすばらしい怪虫が、100年後も私達の心に生きることはなかったのでは。

「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」

フランツ・カフカ

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↑8年ほど前、私も「もうダメだ死ぬ死ぬ」と思いつめたことが、葬儀屋物語のシナリオ受賞につながりました。

この能力はもうなくしてしまったかもしれません…。

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おごるかも

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